ネタバレを含みますので、未クリアの方はご注意ください。
『クロノ・トリガー』には、強烈な存在感を放つ敵がたくさん登場します。
魔王。
女王ジール。
そして、すべての元凶ともいえるラヴォス。
そんな大物たちの中に、一人だけ妙に毛色の違う男がいます。
ダルトンです。
偉そうです。
態度もでかいです。
部下には厳しいです。
自分で戦うよりゴーレムを呼びたがります。
そして、どことなく小物っぽい。
クロノトリガーを遊んだ人の中でも、「強大な悪役」としてダルトンを挙げる人はそれほど多くないでしょう。
ところが彼の行動を振り返ってみると、少し印象が変わってきます。
なぜならダルトンは、
クロノたちの愛機シルバードに翼をつけた男だからです。
しかも後年に追加された物語まで含めて考えると、この男はクロノたちが想像していた以上に、世界の未来へ影響を与えていた可能性があります。
小物に見えるのに、やったことだけは妙にでかい。
今回はそんなダルトンについて考えてみます。
目次
ダルトンとは何者なのか
ダルトンは、古代の魔法王国ジールに仕える人物です。
女王ジールのもとで活動し、ゴーレムを使ってクロノたちの前に何度も立ちはだかります。
ただ、同じ古代編の人物でもジャキやサラとはかなり雰囲気が違います。
物語の核心に迫る謎を抱えているわけでもありません。
悲劇的な運命を背負っているようにも見えません。
とにかく偉そうです。
そして、自分が上に立ちたがります。
ジール王国が崩壊したあとには、生き残った人々の前に現れて自ら王を名乗り、クロノたちを捕らえて黒鳥号へ連行します。そこでシルバードまで奪ってしまいます。
普通なら、
「またダルトンが何かやってるよ」
くらいで終わりそうな場面です。
ところがここで、彼はとんでもないことをします。
ダルトン、勝手にシルバードを改造する
クロノたちが未来で手に入れたシルバード。
正式には「時の翼」と呼ばれる、時代そのものを移動できるとんでもない乗り物です。
しかし、この時点のシルバードには一つ弱点があります。
空を自由に飛び回ることができません。
時代は超えられる。
でも山は越えられない。
冷静に考えると、なんとも不思議な乗り物です。
そんなシルバードを奪ったダルトンは、黒鳥号の技術を使って改造します。
そして翼と武装まで取り付け、シルバードを飛行可能にしてしまいます。
ここがダルトンという男の面白いところです。
本人としては当然、
「クロノたちのために便利にしてあげよう!」
などと思っていません。
奪ったシルバードを自分の乗り物にしたかっただけです。
ところがクロノたちはダルトンを倒し、シルバードを取り戻します。
結果どうなったか。
クロノたちは、空を飛べるシルバードを手に入れました。
敵に乗り物を盗まれたと思ったら、
アップグレードされて返ってきました。
敵なのに主人公の乗り物を最終強化してくれた男
これ、改めて考えるとかなり面白い展開です。
RPGでは終盤になると、主人公たちの移動手段が強化されることがあります。
船を手に入れる。
飛空艇を手に入れる。
世界中を自由に移動できるようになる。
いわゆる「終盤の自由移動解禁」です。
普通なら博士や仲間が、
「完成したぞ!」
と言って新しい乗り物を渡してくれるところでしょう。
しかしクロノトリガーでは違います。
敵のダルトンが勝手にやりました。
しかもクロノたちが頼んだわけでもありません。
奪う。
改造する。
自慢する。
負ける。
返却する。
結果だけ見れば、完璧なアップグレードサービスです。
飛行能力を得たシルバードによって、クロノたちは各時代の世界を自由に飛び回れるようになり、浮遊する黒の夢へ向かうことも可能になります。
ダルトン本人はクロノたちの邪魔をしているつもりなのに、
結果として冒険を次の段階へ進めています。
この絶妙な間の悪さこそ、ダルトンらしさなのかもしれません。
しかも武器までつけてくれました
さらにダルトンは、シルバードを単純に飛べるようにしただけではありません。
武装まで追加しています。
そしてクロノたちは、取り戻した直後のシルバードを操作している最中、その武装によって黒鳥号を破壊することになります。
自分のものにしようとして改造した乗り物を主人公たちに奪い返され、
自分の飛空艇までその武器で破壊される。
ここまでくると芸術的です。
女王ジールやラヴォスには絶対に出せない味があります。
クロノトリガーには重い場面も多いですが、ダルトンが登場するとどこかコミカルになります。
悪役ではある。
でも怖いというより、
「またこいつ何かやってるな」
と思わせる。
だから妙に憎めません。
ダルトンは本当にただの小物だったのか
ところが、ここから話が少し変わります。
オリジナル版のクロノトリガーだけを遊んだ人にとって、ダルトンは黒鳥号での一件を最後に物語から姿を消します。
しかしニンテンドーDS版では、新たに追加された「次元のゆがみ」でダルトンが再登場します。
そこでダルトンは、パレポリで巨大な軍隊を作り、ガルディア王国を滅ぼすという趣旨の発言を残します。
ここでクロノシリーズを知っている人なら、
「あれ?」
と思います。
クロノトリガーの後の時代では、実際にガルディア王国がパレポリによって敗れる出来事が描かれているからです。
PlayStation版で追加された映像では、A.D.1005にガルディアが陥落したことが示されました。そしてDS版では、そこへダルトンの発言が追加されました。
少なくとも、
「パレポリを軍事国家化してガルディアを倒す」という未来と、ダルトンの発言が明確につながるようになった
わけです。
シルバードだけではなく、世界の未来まで変えた男
こうして振り返ると、ダルトンというキャラクターは不思議です。
ラヴォスのように世界を滅ぼす力はありません。
魔王のようなカリスマもありません。
サラのような悲劇もありません。
女王ジールのような狂気もありません。
物語を遊んでいる最中は、どうしても「ちょっと面白い中ボス」に見えます。
しかし結果だけを並べてみると、
シルバードを奪う。
シルバードに翼をつける。
武装まで追加する。
その結果、クロノたちの行動範囲を一気に広げる。
そして後年の追加要素では、パレポリとガルディアの未来にまで関わることが示唆される。
めちゃくちゃ物語を動かしています。
本人が壮大な計画を立てているようには見えないのに、なぜか歴史の重要地点に毎回います。
それがダルトンという男です。
ダルトンの魅力は「格好悪さ」にある
僕は、ダルトンが人気のある悪役たちと同じように格好良く描かれていたら、ここまで記憶に残らなかったと思います。
だいたい格好悪い。
威張っています。
他人の力を使いたがります。
調子に乗ります。
そして最後にはひどい目に遭います。
だからこそ面白い。
悪役が全員、世界の命運を背負って難しいことを語っていたら疲れてしまいます。
そんな中でダルトンは、
「俺が王になる!」
という非常に分かりやすい欲望で動いています。
そして壮大な古代文明の崩壊直後に、ちゃっかり自分が王になろうとします。
この俗っぽさが、逆に人間らしいのです。
小物だったからこそ、未来を変えられたのかもしれない
クロノトリガーは「歴史を変える」物語です。
クロノたちは未来の滅亡を知り、その未来を変えるために戦います。
ところが歴史というものは、必ずしも英雄だけが動かすわけではありません。
大きな理想がなくても、
強大な力を持っていなくても、
本人が意図していなくても、
たった一人の行動によって、その後の世界が大きく変わることがあります。
ダルトンはその象徴なのかもしれません。
クロノたちを困らせようとしてシルバードを奪った。
自分が乗りたいから翼をつけた。
その結果、クロノたちは空を手に入れました。
そしてDS版まで含めれば、消えたと思ったその男が、今度はクロノたちの知らないところでパレポリへ向かおうとします。
英雄でもありません。
ラスボスでもありません。
どちらかというと小物です。
それなのに、
やったことだけは歴史級です。
クロノトリガーで一番偉大な発明家は誰かと聞かれれば、シルバードを生み出したガッシュでしょう。
でも、
「シルバードを完成形にしたのは誰ですか?」
と聞かれたら。
ちょっと悔しいですが、
ダルトンの名前も忘れてはいけないのかもしれません。
なにしろこの男。
クロノたちからシルバードを盗んで、
翼と武器をつけて返してくれたのですから。