ネタバレを含みますので、未クリアの方はご注意ください。
『クロノ・トリガー』には、魅力的な仲間がたくさん登場します。
王女でありながら自由を求めるマール。
親友の死を背負って戦うカエル。
滅びた王国と姉への想いを抱え続ける魔王。
その中でも、なぜか強烈に「泣ける」キャラクターがいます。
ロボです。
未来で出会う一体の機械。
最初は壊れて動けなくなっていた彼をルッカが修理し、クロノたちの旅に加わります。
しかし物語が進むにつれて、ロボは単なる「ロボットの仲間」ではなくなっていきます。
仲間を思いやり、過去を失い、旧友との別れを経験し、誰かのために400年という途方もない時間を生きる。
そして最後には、自分が存在しなくなるかもしれない未来へ帰っていく。
ロボが泣けるのは、機械なのに人間らしいからだけではありません。
むしろ、
人間には決して生きられない時間を生きながら、それでも人間と同じように誰かを大切にしたから
ではないでしょうか。
目次
ロボとルッカは「修理する人」と「修理される機械」から始まった
ロボとの出会いはA.D.2300年。
荒廃した未来で停止していたロボを発見し、再び動けるようにしたのがルッカです。
この時点では、二人の関係はとてもシンプルです。
ルッカは機械に詳しい少女。
ロボは壊れた機械。
だからルッカが修理する。
ところがロボは、旅を続けるうちに仲間として扱われるようになります。
これは当たり前のようで、実は重要です。
ルッカにとってロボは、最後までただの機械ではありません。
壊れれば直す。
困っていれば助ける。
一緒に旅をする。
そしてロボ自身もまた、そんなルッカたちとの旅の中で、人間という存在を理解していきます。
後に明らかになるロボの本来の名は「プロメテス」。
ジェノサイドームでは、自分が人間を観察する使命を持ったロボットだったことや、かつての仲間アトロポスとの過去にも向き合うことになります。
しかし旅を始めたロボにとって、人間はもはや単なる「観察対象」ではありません。
クロノも、マールも、そしてルッカも、
自分の仲間になっていました。
ロボだけが本当に400年を生きた
ロボを語るうえで外せないのが、フィオナの森のイベントです。
A.D.600年。
砂漠化した土地に再び森を取り戻したいと願うフィオナですが、人間の寿命では何百年もかかる仕事を最後まで見届けることができません。
そこでロボが名乗り出ます。
自分なら長い年月でも作業を続けられる。
クロノたちはロボをA.D.600年に残し、タイムゲートを使ってA.D.1000年へ移動します。
プレイヤーにとっては一瞬です。
しかし1000年の世界へ行くと、そこにはかつて砂漠だった場所を覆う巨大な森があり、その中心にフィオナ神殿が建っています。
そして神殿の奥には、長い年月でボロボロになったロボが残されています。
クロノたちにとって数分だった時間を、ロボだけは400年間生きたのです。
実際にロボはA.D.600年からA.D.1000年まで森の再生に携わり、再会した際には自分にとって400年が経過したことを語ります。
ここが、ロボというキャラクターの最大の特徴だと思います。
クロノトリガーでは、誰もが時間を移動します。
しかしロボだけは違います。
600年から1000年までを、
実際に生きた。
400年は「イベント」ではなくロボの人生だった
ゲームをプレイしていると、つい忘れてしまいます。
A.D.600年にロボを置いて、A.D.1000年に移動する。
プレイヤーから見れば、ほんの数十秒です。
しかしロボにとっては400年です。
春が来る。
夏になる。
秋が過ぎる。
冬が来る。
それを400回繰り返す。
フィオナもいつか亡くなったでしょう。
ロボが知っていた人々も、次々とこの世を去っていったはずです。
そして世代が変わっても、ロボは森を育て続けます。
作中で400年間のすべてが描かれているわけではありません。
だから「400年間ずっと孤独だった」と断定することはできません。
それでも確かなのは、
クロノやルッカたち仲間とは、400年間離れていた
ということです。
人間なら到底耐えられない時間です。
しかもロボは、仲間たちがいつ戻ってくるのかを自分の時間感覚では知ることができません。
それでも仕事を続ける。
森を残すために。
頼まれたからではありません。
自分から引き受けた仕事です。
ここまでくるとロボは、「命令された仕事を忠実に実行する機械」ではありません。
未来の誰かのために、自分の時間を差し出した存在
になっています。
400年後のロボを直すのもまたルッカだった
そしてA.D.1000年。
長い年月によって傷んだロボを再び動けるようにするのもルッカでした。
二人が出会ったA.D.2300年でも、
ロボは壊れていて、
ルッカが修理しました。
そして400年の作業を終えたあとも、
ロボはボロボロになっていて、
ルッカが修理します。
この繰り返しが美しい。
最初はただ、
「機械に詳しいから直した」
だけだったかもしれません。
しかし二度目は違います。
そこにいるのは、知らないロボットではありません。
長い旅を一緒に続けてきた仲間です。
プレイヤーにとって400年は一瞬だった。
ルッカにとっても一瞬だった。
でもロボにとっては違う。
その400年を終えたロボに、最初にもう一度手を差し伸べるのがルッカなのです。
ロボは400年の間に「時間」について考えていた
さらに興味深いのは、400年を過ごしたロボが、単に森を作っていただけではないことです。
再会した仲間たちとのキャンプで、ロボはタイムゲートについてひとつの仮説を語ります。
ラヴォスがゲートを作ったのではなく、別の「何者か」がクロノたちに過去の出来事を見せようとしているのではないか。
400年を経験したロボは、時間そのものについて考えるようになっています。
これもロボらしいところです。
普通の人間なら400年間生きることはできません。
しかしロボには、その時間があります。
だからこそ、
「なぜ自分たちは時間を旅しているのか」
を考え続けることができた。
機械だから長く生きられる。
しかし長く生きた結果、哲学するようになる。
クロノトリガーはここで、機械と人間の境界を少しずつ曖昧にしていきます。
そして物語はルッカの過去へつながる
フィオナの森のイベントが印象的なのは、ロボの400年だけではありません。
キャンプの夜、ルッカは特殊なゲートを通り、自分の幼少期へ戻ります。
母ララに起きた事故。
幼いルッカにはどうすることもできなかった、人生を変えた出来事です。
プレイヤーの行動によって、その過去を変えることもできます。
そしてルッカが戻ってきたとき、待っているのがロボです。
結果にかかわらず、ロボはフィオナの森で長い時間をかけて作った「みどりのゆめ」をルッカに渡します。
ここが非常に象徴的です。
ロボは400年間かけて森を再生した。
ルッカはわずかな時間だけ過去へ戻り、ずっと後悔していた出来事と向き合った。
二人とも、
時間によって傷つき、時間によって救われる
のです。
だからフィオナの森のイベントは、単なるロボのサブイベントではありません。
ロボとルッカという二人のキャラクターを、「時間」というテーマで強く結びつける物語になっています。
アトロポスとの別れで見えるロボの過去
ロボには、もうひとつ大きな別れがあります。
ジェノサイドームで出会うアトロポスです。
アトロポスは、ロボがプロメテスと呼ばれていたころを知る存在。
しかしマザーブレーンによってプログラムを書き換えられており、ロボと戦うことになります。
この戦いはロボ一人で行われます。
戦いのあと、アトロポスは一時的に本来の記憶を取り戻し、ロボにリボンを託して機能を停止します。
ロボはここでも、
「昔から知っていた存在を失う」
経験をします。
彼は機械です。
しかし、失った相手を交換すれば済むわけではありません。
同じ型番のロボットを用意しても、それはアトロポスではない。
これは人間の死とほとんど同じです。
記憶を共有した時間があるからこそ、その存在は代替できない。
ロボは旅を通して、
人間がなぜ別れを悲しむのか
を自ら経験していきます。
ロボが人間らしくなったのではない
ロボについてよく語られるのが、
「機械なのに人間らしい」
という魅力です。
もちろん、それも間違いではありません。
ただ、もう少し違う見方もできます。
ロボは人間になったわけではありません。
食事をする必要もない。
眠る必要もない。
400年間働き続けることもできる。
人間とはまったく違う存在です。
それでも、
仲間を大切にする。
誰かのために行動する。
昔の友人との別れを悲しむ。
未来について考える。
ルッカを友達として大切にする。
つまりクロノトリガーが描いたのは、
「人間だから心がある」のではなく、「誰かを大切にすることそのものが心なのではないか」
ということだったのかもしれません。
最後の別れでルッカが泣く理由
ラヴォスとの戦いが終わると、それぞれの仲間は自分の時代へ帰っていきます。
ロボもA.D.2300年へ戻ることになります。
しかし未来は変わりました。
ラヴォスが倒されたことで、クロノたちが最初に見た荒廃した未来そのものが存在しなくなる可能性があります。
そこでロボは、自分自身も消えてしまうのではないかと考えます。
その別れを前に、ルッカは涙を見せます。
ロボとルッカの別れが強く印象に残るのは、ロボ自身もまた「未来を変えたことで自分が存在しなくなるかもしれない」という不安を抱えているからです。
最初に会ったとき、
ルッカにとってロボは壊れた機械でした。
直せば動く。
それだけだったはずです。
しかし最後には、
失うかもしれないことが悲しくて泣く存在
になっています。
機械か人間かなど、もう関係ありません。
ロボはルッカの友達なのです。
ロボが泣けるのは、時間の重さを一人だけ知っているから
クロノトリガーには時間を越えるキャラクターがたくさん登場します。
しかし、その中でもロボは特別です。
クロノたちは時間を移動する。
ロボは時間を生きる。
フィオナの森を作るために400年を過ごし、その長い時間の中で世界について考え続ける。
過去を知るアトロポスを失い、
自分を修理してくれたルッカと友達になり、
最後にはその友達と別れなければならない。
人間よりはるかに長く存在できるはずなのに、だからこそ誰よりも多くの別れを経験する可能性がある。
それがロボというキャラクターです。
そして最も胸に残るのは、400年という途方もない時間を過ごしたロボが、仲間たちとの再会を特別なこととして喜ぶところでしょう。
クロノたちにとっては、ほんの一瞬。
ロボにとっては、400年。
それでも再び会えば、彼はいつもの仲間に戻る。
400年離れていても、友達だった時間は消えなかった。
だからロボは泣けるのです。
機械なのに心を持ったからではありません。
長い時間を生き、別れを知り、それでも誰かを大切にし続けた。
クロノトリガーはロボという機械を通して、
「心とは何なのか」を、人間のキャラクター以上に人間らしく描いたのかもしれません。